こんにちは、大阪市福島区の歯医者 富永歯科クリニック院長 富永佳代子です。今回は、高齢者の栄養摂取、特に低栄養と関係がある嚥下障害についてお話をし、シリーズ最後となります。
口腔機能低下症
私たちが日々行っている「食べる」という行為は、「話す」「呼吸する」というお口を使う行為よりもかなり複雑です。「食べる」は、「お口を開ける」「舌や歯を使って食べ物を咀嚼する」「飲み込む」嚥下(えんげ)というメカニズムにより構成されています。健全な高齢者の嚥下に障害はありませんが、加齢に伴い嚥下機能の変化は起こります。それに付随して、病気や栄養不足、中枢神経系の薬などの要因が合わさると、摂食障害に移行します。
摂食嚥下障害
摂食嚥下障害は、単一の病気ではなく、原因となる病気によって現れる症状です。初期症状は、むせる、飲み込みづらい、飲み込むことが苦痛と感じるなどがあります。
摂食嚥下障害の原因は、
- 脳卒中→大半は治っていく
- 筋萎縮側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの神経系の難病→悪化していく
- アルツハイマー型認知症などの中枢神経障害→悪化していく
- 頭頚部がんなどの咽喉頭の変形→根治不可能
- サルコペニアの摂食嚥下障害→予防できるが、治療は困難
サルコペニアによる摂食嚥下障害は、近年注目されている新しい原因の摂食嚥下障害で、嚥下に関係する筋肉量減少と筋力低下によって起こります。対策を行うことにより、進行することも、現状維持や改善することもあります。
摂食嚥下障害で、最も気をつけるのは窒息です。誤飲性肺炎、低栄養のリスクも高まり、食べる楽しみ、飲み込む喜びを失ってしまい生活の質(QOL)が低下します。また、低栄養の人やサルコペニアの人は摂食嚥下障害を起こしやすいことが分かっています。口腔衛生(歯磨き、うがい、虫歯、歯周病)や口腔機能への関心が低い人も要注意です。
「生きる」ことに最も重要な「食べる」ことは、動物や人間にとって本能であり、機能的には優れているので、後期高齢者の方々で接触機能に問題のない方も多くおられます。しかし、若い時に比較して、口腔乾燥、噛む力の低下、反射機能の低下といった生理的機能の低下は否めません。摂食嚥下機能に障害はなくとも、誤飲のリスクが高いことは明らかです。
摂食嚥下障害の対策
摂食嚥下リハビリテーションは、安全に食べることを訓練することです。認知機能が低下している場合は難しいため、誤飲や窒息のリスクを最小限にするために工夫が必要です。機能回復が困難である場合、別の方法で補い、安全に食事ができるようにするための方法です。
姿勢調整
椅子に深く腰掛け、背筋をまっすぐに軽く顎を引いて食べましょう。猫背のような前傾姿勢では、顎があがり、飲み込むことが困難になり体力のない高齢者には嚥下困難となります。
食形態の調整
咀嚼しにくい物や、咀嚼しても口の中でまとまらずバラバラになりやすいもの、粘着性の高いものは誤飲しやすいので、食べやすい食形態に調整しましょう。むせやすい水や汁物は、とろみをつけます。
食事のスピード
食事はゆっくりと時間をかけてとり、飲み込むことに集中しましょう。一口量が大きいと誤飲しやすくなるので、小さめのスプーンなど配慮が必要です。
食べる喜びを
噛むことで、脳の血液量が増え、脳が活性化されることはご存じと思います。高齢者は、若い人に比べて、前頭野が活発に動きます。食べることの楽しみ、食べ物に関する経験が多い分、楽しい記憶、感情が呼び起されます。生涯を「口から食べる」ことで、身体機能を低下させることなく、生活の質を保つため、かかりつけ歯科医を持ち、定期的にお口の中の機能を検査してもらい、問題があれば改善するため治療を受けましょう。
富永歯科クリニック 院長 富永 佳代子