こんにちは。大阪市福島区の歯医者 富永歯科クリニック院長富永佳代子です。前回に引き続き、抜歯、インプラントなどの外科治療を受けるときに、注意が必要な病気やお薬についてお話します。今回は、最終項目「長期ステロイド剤服用」について、ご紹介します。
ステロイド剤とは、どのようなお薬でしょうか?
「ステロイド」とは、腎臓の上にある副腎で生成される副腎皮質ホルモンの1種です。副腎皮質ホルモンは、体の中の炎症を抑えたり、免疫反応を抑える強い作用があります。例えば、強いストレスを感じた時に、脳の視床下部から腎臓に指令を出して、副腎からステロイドが分泌されると、ストレスへの体の過剰な反応が抑えられます。このホルモンが持つ作用を薬として応用したものがステロイド剤です。体の炎症や免疫反応を抑えるのに、体内で作られるステロイドだけでは不足している時に使います。種類としては、塗り薬、飲み薬、注射薬があります。
どのような疾患に使っているのでしょうか?
ステロイド剤は、気管支喘息、悪性リンパ腫、ネフローゼ症候群など、さまざまな疾患の治療に使われています。特に自己免疫疾患を持ってらっしゃる方が服用されています。例えば、免疫の異常により関節に炎症が起きて痛みや腫れが起きる関節リウマチがあります。ステロイド剤は、過剰な免疫反応と炎症を抑え、痛みや腫れを和らげる作用があります。
歯科治療との関係は?
細菌感染に注意
炎症というと良くないものと考えますが、これは細菌に対して体が戦っている状態です。ステロイド剤長期服用をしている方は、炎症や免疫反応が起きにくくなっているため、細菌感染しやすい状態です。そのため、抜歯後や手術後の傷が治りにくく、膿んだり腫れたりすることがあります。
治療のストレスに注意
歯科治療、医療行為は、誰でも少なからず緊張し、ストレスになります。副腎皮質ホルモンは、そうしたストレスが体に与える影響を緩和させる作用があります。しかし、ステロイド剤長期投与の方は、副腎皮質ホルモンの分泌が抑えられている状態にあります。そのため、抜歯やインプラント手術などの後、発熱、嘔吐感、筋肉の痛み、血圧低下といった体調の悪化を訴えることがあります。これを「副腎クリーゼ」と呼びます。
歯科からのお願い
抜歯や外科処置前にステロイド剤を服用している方は、必ずお伝えください。ステロイド剤長期服用の方は、細菌感染を起こしやすい状態にあります。そのため、外科治療の際には、抗菌薬(抗生物質)を通常より多めに服用していただいたり、前もって服用(予防的投与)してもらうことがあります。また、ストレスによる体調変化を防ぐため、通常より多くステロイド剤を服用していただく「ステロイドカバー」が必要になることがあります。ステロイドカバーが必要か否かは、医科の先生との相談になります。
お薬手帳をお持ちください。
これまで、5回にわたり歯科治療と服用薬との関係をお話してきました。滅多にないのですが、命にかかわるようなケースもありますので、歯科受診の際には、必ず持病やお薬手帳についてお話しください。1種類ぐらいの服用薬であれば覚えていますが、種類が多くなるとわからない方、お薬手帳を持ち歩くのが煩わしい方は、携帯電話の中に、服用薬の資料、写真をいれておくのも良いと思います。
安心、安全な歯科治療のために、ご協力ください。
富永歯科クリニック院長 富永佳代子