こんにちは。大阪市福島区の歯医者　富永歯科クリニック　院長富永佳代子です。今回は、認知症と歯周病の関係について、お話します。

みなさんが、高齢になった時に一番なりたくない病気は何でしょうか？なりたくない病気の筆頭は、認知症です。認知症の7割を占めるアルツハイマー型認知症の発生抑制には、歯周病の治療と予防、特にプラークと歯石除去が有効であることがわかってきました。

歯周病予防が認知症予防？

近年の研究で「歯周病にかかっていないと、老化がゆっくりで、健やかに年齢を重ねる方が多い」「歯周病と認知症が関係している」「重度の歯周病を患う人は認知症になりやすい」「歯周病にかかっている認知症の患者さんは、認知症の症状の進行が速い」という報告がされています。またアルツハイマー型認知症の患者さんの脳内から、歯周病に関係の深い「Pg菌」（ポルフィロモナスジンジバリス菌）が発見されたという報告があります。当初は、その因果関係やメカニズムが不明でしたが、研究が進むにつれて、「Pg菌が起こす炎症によってアルツハイマー型認知症の原因物質（脳にたまる異常なたんぱく質＝老人班アミロイドβ）が体内に増える」「老人班アミロイドβを脳内へとPg菌が誘導している」ことが分かってきました。

今後、日本における認知症の患者は増加傾向にあり、2025年には約700万人に達すると厚生労働省は推測しています。しかし、発症を5年遅らせることで、アルツハイマー型認知症患者を半減できるという推測もあり、歯周病予防が将来の日本を変える可能性もあるのです。

なぜ歯周病菌が脳内に？

なぜ、歯周病を引き起こす細菌が、脳の病気を関係するのでしょうか？

歯周病は、歯周病細菌が引き起こす感染症です。歯の歯周ポケットのプラークに潜む歯周病菌は、歯茎に炎症を引き起こします。炎症を起こした歯ぐきの粘膜の破れ目を入り口にして、血流にのり、歯茎の内部はもちろん、からだにも入り込んでいきます。長期に渡り歯周ポケットにたまっているプラークや歯石を除去しないと歯周病菌の温床となります。特にPg菌は、腫れた歯ぐきからの浸出液や血液が栄養素となり、培養地となります。Pg菌の数が増えると、免疫細胞では太刀打ちできなくなり、体内にPg菌が巡り、さらに、免疫細胞の過剰反応が老人性アミロイドβの増加という事態が発生するのです。

アミロイドβが増えるのはどうしてなのでしょうか？

なぜ歯周病菌の起こす炎症によって老人性アミロイドβが増えるのでしょか？

歯周病の炎症で歯ぐきの粘膜に破れ目ができ、Pg菌が歯茎の内部に侵襲します。すると、免疫細胞が反応し、カテプシンBというたんぱく質分解酵素を排出します。カテプシンBは、不要なたんぱく質を片付ける酵素ですが、過剰に存在するとやっつけたPｇ菌だけでなく、周りの細胞を傷つけてしまうので、異常なたんぱく質「老人班アミロイドβ」が増産されます。つまり、老人班アミロイドβは、免疫細胞の過剰反応が引き起こした副産物というわけです。

老人班アミロイドβは、脳内でつくられて、脳に蓄積されると考えられてきました。しかし、研究が進むにつれ、歯周病菌による炎症が起きている歯ぐきでたくさん作られてること、さらに肝臓にもPg菌が存在し老人班アミロイドβが作られていることが判明しました。

歯茎の中でできたアミロイドβが、いかにして脳内に入り込むのでしょうか？

脳には「血液脳関門」という関所のように働く脳血管の機構があり、血液中の異物が脳には入り込めないシステムになっています。

それでは、歯ぐきなどでできたアミロイドβは、どうやって脳内に入り込むのでしょうか？

Pｇ菌が、血流にのって頭部に到達すると、血液脳関門を構成する血管壁の細胞にくっつきます。Pｇ菌に対して抵抗する血管壁の細胞がカテプシンＢを作りだします。カテプシンＢが、血管壁の細胞にアミロイドβを脳内に送り込む受容体を増やすことが判明。この受容体から、アミロイドβが脳内に入り込めるようになり、徐々に神経細胞を傷つけ脳を委縮し、アルツハイマー型認知症を引き起こすと考えられます。

Pｇ菌は、歯茎の粘膜を壊して歯茎に入り込みアミロイドβを産生するだけでなく、作ったアミロイドβの脳内への運搬も担っているのです。

難しいお話ですが、Pg菌の存在が、認知症に関係していることが、お分かりになったと思います。次回、続きをお話します。

富永歯科クリニック　院長　富永　佳代子