こんにちは。大阪市福島区の歯医者 富永歯科クリニック 院長 富永佳代子です。今回は、酸蝕症についてお話します。
7月に入り、暑い日が続きます。気温上昇に伴い脱水症状の防止のために、こまめに水分をとるように、心がげていることと思います。水分摂取のための水、お茶、そしてスポーツドリンクを飲むことでしょう。暑さによる食欲減退のため、口当たりのさっぱりとした酸味の強い柑橘系のフルーツ、酸味の強い食べ物、そしてお酢を食事に取り入れることもあると思います。柑橘系フルーツはビタミンC摂取、お酢は食後の血糖値の上昇予防、体脂肪、内臓脂肪の減少など、健康に良いイメージがあり日常的に取り入れている人も多いと思います。しかし、歯科から見れば、危険な因子もあるのです。
酸蝕症とは?
酸性の飲食物、つまり㏗値の低い飲食物に含まれる酸は、歯に触れると歯のミネラル成分と化学反応を起こします。歯からミネラル成分が溶けだし、脱灰が起こります。一時的に酸性の強い飲食物を取っても、唾液が酸を中和してくれるので問題はないのですが、㏗の低い飲食物を長時間だらだらと食べたり飲んでいると、酸が歯に触れている時間が増えて、唾液の中和作用が間に合わなくなります。その結果、歯の表面のエナメル質や象牙質の表面が柔らかくなり減っていきます。これが酸蝕症なのです。
酸蝕症は、酸性飲食物の過剰摂取、日々の常用が主な原因です。また摂食障害による嘔吐や逆流性食道炎などの疾病があり、お口の中に酸性物が持続的にあることも原因になります。
う蝕(虫歯)との違いは?
う蝕も酸蝕症も、酸によって歯が脱灰することは同じです。しかし、脱灰する酸はどこに由来するか?また脱灰の進行度合いが、違います。
う蝕(虫歯)の場合、原因となる酸は、㏗は4.3~5.5で比較的マイルド、砂糖のような糖類が虫歯菌によって代謝されたものです。脱灰は30分ぐらいかかりながら、ゆっくりと進みます。また、唾液の作用より、プラークが流されると脱灰反応は停止します。つまり、虫歯になるには時間がかかるという解釈です。
一方、酸蝕症の場合は、飲食物に含まれる天然又は添加物由来の酸です。㏗の値は、2.5~5.5で、脱灰の進行度は千差万別です。歯に酸が接触する時間は数秒から1分以内を繰り返し(食べる、飲むという行為)、酸の量は多量です。つまり、短時間でエナメル質の脱灰が進行するのです。
酸蝕症の症状
う蝕は、プラークが蓄積しやすいかみ合わせの部分、歯と歯の隣同士の面、歯の根元に発生しますが、酸蝕症は、摂取した飲食物がお口の中に広がり、複数の歯の表面に同時多発することになります。エナメル質が全体的にゆっくりと溶けていくので、初期の段階では、酸蝕症と気づきません。進行してくると、前歯の先がすり減り、何となく薄くなってきて透明感が増してきます。奥歯の場合は、表面がずるっと丸くなってきたり、かみ合わせの凸凹がなくなり象牙質が見えてきます。これは、食いしばりや歯ぎしりでも起こることがあり、鑑別は困難をきたします。酸蝕症の診断の決め手は、患者さんの食習慣です。
酸蝕症が進行すると、冷たいものがしみる知覚過敏症状が出ることもあります。この時点で、歯医者さんに相談すると、進行を止めるアドバイス、食生活の改善、消化器系の基礎疾患の治療の勧めなどを行い、酸蝕症の進行を止めることが可能です。気づかないまま放置すると、象牙質まで酸蝕が進み、神経を取る処置が必要になることもあります。お口の中の全ての歯に、同時に進行するため、治療は困難をきたし、時間がかかります。
ご自分の歯を、鏡で見て以前と違って歯の形がすり減ってきた、薄くなってきたと思ったら、ご自分の食生活を顧みる必要があります。健康のために行っていたことが、健康を害する行為に変化することもあるのです。
次回は 具体的に酸性飲食物に関してお話しします。
富永歯科クリニック 院長 富永佳代子