治療費の疑問について:保険と自費の何が違うの?
「保険で使用できる銀歯(場合によりプラスチックの白い歯も適応)なら、4千円くらいなのに、ジルコニアなどのセラミックなら自費なので、10万円以上です。」と言われますよね。できれば白い歯がいいけど、金額は何十倍! この差はどうしてなのでしょうか?
国民皆保険制度がある日本では、全国どこの病院・医院であっても、全く同じ治療なら同じ費用です。歯医者に行っても同じです。患者さんが支払う費用も通常1~3割負担のみです。
ただし、歯科治療においては、保険適用になる範囲が非常に限定されています。(この部分は少し医科と違う気がします。)
クラウンや入れ歯の作るときの材料も細かく決められています。国民総医療費は40兆円を超えているにもかかわらず、歯科で使われるのは約2兆7千億円だけです。(総医療費のわずか6.8%:平成26年度)それを約10万人の歯科医が使うので、全てを保険で認めるとすぐに医療費が底をついてしまうというのが、国の考えです。つまり限られた医療予算で「命に係わる病気が優先」ということでしょう。他の欧米諸国でも入れ歯やクラウンを健康保険で作れる国はほとんどありません。日本で数千円できる抜歯も、アメリカなら数万円かかります。そういう点では、保険制度はありがたいのですが、「より快適で、より審美的なものを希望するなら自費診療で」というルールになっているのです。
保険診療においては、審美治療は贅沢品という考えをされているようです。銀歯で十分機能するのに奥歯に白いものは贅沢だというのです。何だか、美容整形と同じような扱いですね。メインテンスも基本的には保険では認めていません。それを保険診療内で行うために、多くの歯科医院は工夫しながら行っています。保険は病気になって使えるもので、予防のためには使えないという考えです。人間ドックが保険でできないのと同じです。更に、保険診療においては、卒業したての歯科医も経験充分で色々な治療ができる歯科医も保険点数は同じであるため、同じ収入です。普通、回転ずしを作っている人とカウンターでお寿司を握っている人が、同じお給料ということはまずないのではないでしょうか?大学で6年教育を受けて、研修医をしても保険診療がなんとか治療できるレベルです。自費診療を本当に高いレベルで行うには、卒後どれだけ勉強をして、トレーニングをしたかによって決まります。特にインプラント手術は大学教育の中で、手術方法などを身に着けるまでは教育を行いません。これはアメリカも同じです。通常は勤務先で学習する事がほとんどです。つまり、勤務先の治療レベル次第なのです。だから、インプラントの治療を受けたけど失敗したとか、良くなかったというようなネガティブな事を聞くことがあるのです。
高いレベルで治療を行っている医院では、ほとんど失敗や事故は見られないですね。実際、インプラントも人間という体に行う治療なので、全員同じように骨に生着するとは限りませんが、生着しないというようなことは1%もないと思われます。
保険が使えない治療には主に「インプラント」「歯列矯正」「審美治療」があります。
それぞれの内容を見ていきたいと思いますが、私は、この3つの治療抜きに良い治療を提供できないと思っています。
それぞれの治療の目的を見てみましょう。
インプラント:歯がなくなってしまった所を元の歯のある状態に戻すことができ、残存歯の負担を減らす
歯列矯正 :歯を正しい位置に配置する
審美治療 :見た目を良くして、QOL(Quality of Life:生活の質)日々の生活を充実させる
では、これらの治療ができないとしたら、どうなるのでしょう?
インプラントができないなら、義歯(ブリッジが可能な場合はもあるが)を用いることになります。義歯はこの字のごとく義手、義足といったもののように、装着時は自分の意のままに使うことができないので、自由に使えるようになるまでトレーニングが必要です。義歯は装着してすぐに噛めるのではなく、痛いところなどを調整して、使えるようにしていきます。また、最初は異物感などがあると思いますが、慣れるまで、とにかく練習して使うしかないのです。義歯は特に弾力性のある硬いものが苦手です。
しかし、自費診療による義歯では金属でフレームができているので、壊れにくく、薄く作れるので装着感もよく、温度も感じやすいので、食べ物の旨味も感じやすいです。また、部分義歯の欠点である金属のバネも見えなくする事が可能となり、かなり満足感がアップします。
歯列矯正ができないなら、見た目の歯並びを改善することはもとより、正しい位置に歯がないという事は、顎が機能的な動きができないことと同時に、歯にかかる力もバランスが悪いので、どこかの歯にだけ負担が大きくなる可能性もあります。治療をしているのに、被せが外れたり、歯が折れたりよく起こる場合は、噛み合わせの状態が悪い可能性が高いのです。口腔状態が長く良い状態に保つためにも歯並びはとても大切なのです。
歯の位置を機能的に適切な位置に並べることはとても重要です。アメリカの建築家ルイス・ヘンリー・サリヴァンは「形態は機能に従う」と言っています。つまり、歯を機能的に重要な位置に並べると結局、審美も改善されるという事なのです。患者さんにとって矯正治療は見た目をきれいにする事が一番大切な事だと思いますが、歯科医が機能的に重要な位置に歯を並べると自然ときれいな歯並びになるのです。
審美治療ができないなら、銀歯を白くすることもできません。銀色が口元から見えるのが気になる人にとってはとても重要な事です。また、金属アレルギーがある場合には、金属を使用しない被せを使いたいですね。
以上、
本来、口腔内の健康を維持して、噛みやすく、見た目にきれいな歯で、日々の生活の質を向上して、幸福感を得ることが、保険治療では行えないという事が、今の日本の保険制度の問題だと思えます。
同時に、健康保険を持つ全ての人が等しく最低限度の治療が受けられるという事は、世界の中でもすばらしい制度ではあるとも言えます。
副院長 赤野 弘明