こんにちは 大阪市福島区の歯医者 富永歯科クリニック 院長富永佳代子です。今回は、妊娠期の女性の歯科治療の疑問点、不安な点について、ご説明します。
妊娠期に歯が悪くなるの?
昔は「一子を得ると、一歯を失う」言われ、妊娠、出産すると歯が悪くなると信じられていました。その原因は、赤ちゃんの成長に母体のカルシウムがとられ、歯からもカルシウムが失われるからと言われてきました。これは、本当でしょうか?
胎児の成長には、母体からの栄養供給が欠かせません。母体に蓄えられている栄養素が使われる可能性もありますが、歯に関しては、血中に歯からカルシウムが吸収されることはありません。虫歯や歯周病になるのは、お口の中の細菌が関係し、妊娠により口腔内環境が変化することによります。妊娠による女性ホルモンの急激な変化が、歯肉の炎症を高め、歯周病細菌の発生、増悪を引き起こします。また、悪阻(つわり)により、歯磨きの困難、食志向の変化、食事回数の増加により、虫歯や歯周病のリスクが高まります。この結果、プラークや歯石の沈着が強まり、唾液の粘度の変化により口腔の自浄性が低下、口腔環境が不良になっていきます。しかし、プラークや歯石除去により症状の改善を図ることは可能です。妊娠性歯肉炎やエプーリスは、出産後は自然に治りやすく、妊娠中の歯周病も適切な口腔ケアにより、対処できるという報告もあります。そのため、妊婦歯科検診をぜひ受診して、歯医者さんや衛生士さんに、ご相談なさってください。
悪阻(つわり)時の歯磨きがつらいのは、どうしたらいい?
妊娠初期(0~15週)は、つわりで歯磨きがつらいことが多く、全くできないこともあります。しかし、歯を磨かなければ、虫歯になったり、歯肉が腫れて出血する歯肉炎を起こすことになります。
悪阻がひどいときは、以下のように工夫してみてください。
①一日の内で、悪阻が軽く体調が良い時間に磨く
食後、夜寝る前に歯磨きをしなければ!と思わず、一日のいつでも良いので、気分の良い時に、短時間で磨くことをお勧めします。
②ブクブクうがいを十分に行う
フッ化物やクロルヘキシジン含有の洗口剤の使用をお勧めしますが、お茶や水でも構いません。
③歯磨剤を使用しない
市販の歯磨剤のにおい、泡立ちが不快に感じるのであれば使用しなくても構いません。ジェルタイプの泡立ちのないものに変更しても構いません。
④歯ブラシは小さめを使う
通常の大きさの歯ブラシで嘔吐感があるのなら、子供用歯ブラシに変えてみましょう。
⑤歯ブラシをこまめに動かす
歯ブラシを大きく動かすと嘔吐感が増すので、小刻みに動かすほうが楽にできます。
⑥顔を下に向けて磨く
下を向くことで、嘔吐感が減少します。
⑦ながら磨きをする
テレビを見ながら、お風呂に入りながら、など、リラックスした状態で磨くことお勧めします。
急性炎症時に鎮痛剤や抗生物質の服用をしても良い?
妊娠期間中に急性炎症を起こすことは、ないとは言えません。例えば、親知らずの周囲の細菌感染、虫歯のため急性歯性感染を引き起こすことがあります。この場合、消炎処置や抗菌薬の投与が必要になります。
妊娠中に投与された薬剤による胎児への影響は、投与された薬、服用期間、服用時期によって変わります。胎児の催奇形が問題になるのは、妊娠初期(0~15週)です。この時期は、胎児の身体構造を形成する、最も大事な器官形成期であり、催奇形を誘発する可能性があるので慎重な判断が必要です。投薬治療に関しては、産婦人科医との相談、妊婦さんやご家族の方への説明を十分した上で、行うことになります。
一般的には、抗菌薬は安全性の高いペニシリン系、セフェム系が第一選択であり、アレルギーがある場合は、マクロライド系が第二選択となります。鎮痛薬の投与は、安全性の高いアセトアミノフェン(カロナール、コカール)を選択しますが、疼痛時のみに限っての使用となります。安易に自己判断で市販の鎮痛薬の使用するのは、控えてください。そして、さらに気をつけないといけないのは、妊娠していることに気づいていない方の投薬治療です。対処としては、治療問診時に、妊娠の可能性を聞き出します。可能性がある場合は、投薬は控えることになり、痛みや腫れに対して我慢しないといけなくなるのです。
重要なことは、妊娠を望んでいる女性は、妊娠前に虫歯、歯周病の治療を完了したうえで、妊娠に臨むことが大事と言えます。そのため、症状や問題はなくても、歯医者さんに行ってお口の検診を受けて治療を終えてから、妊活をなさってください。妊娠期の生活を楽しむために、事前準備を怠らないように、お願いいたします。
富永歯科クリニック 院長 富永佳代子