こんにちは。大阪市福島区の歯医者　富永歯科クリニック院長富永佳代子です。

急に歯が痛くなってきたけれど、鎮痛剤で何とかしのいでいたら痛みがとれた。歯医者さんに行こうか迷っていたけれど、このまま様子を見ようと放置した経験はありませんか？非常に強い痛みが生じる歯の根っこのむし歯ですが、放置しておくと一旦痛みが消えてしまうことがあります。しかし、それは決して治ったわけではないのです。今回は、歯の根っこの治療についてお話します。

歯の神経（歯髄）が死んでいく病気　歯髄炎

歯の根のむし歯の痛みには2種類あります。1つ目は神経が死んでいくときの痛みです。これは、虫歯が進行して、神経や血管がある歯髄（しずい）が細菌感染を起こし、壊死していくときにおこる痛みです。歯髄が炎症を起こしているので「歯髄炎」と呼んでいます。

虫歯で歯に穴が開いてくると冷たいものがしみる症状、さらに進行すると熱いもので痛みを感じる症状と徐々に痛みが大きくなり、長時間続くようになります。そして、歯髄に虫歯菌が感染すると、根の先の方向に感染が広がり、それに伴い歯髄が死んでいきます。痛みはずっと持続しているのではなく、波があり、心臓が拍動するようなズキンズキンとした痛みが一定の間隔を置いて繰り返すことになります。そして、ある時に強烈な痛みを感じて、鎮痛剤なしでは過ごせなくなります。これは、神経の断末魔の叫びなのです。そして、神経が死んでしまうと、痛みが消えてしまうのです。歯医者さんの予約を取っていたけれど、痛みが無くなったのでキャンセルしようと、考えてしまうわけです。

しかし、これは決して治ったわけではなく、歯髄が壊死して、その腐敗物が根っこの中に残留している状態です。水道管の中に、腐敗した水があることを想像してください。時間が経つと水道管の内部も、腐敗してきますよね。つまり、腐敗物を除去して、根っこの中を、きれいな状態にしないと、歯の根っこが腐敗していき、症状は次のステージに進んでしまうことになります。

根の先に膿がたまる病気　根尖性歯周炎

痛みの二つ目は、膿が顎の骨の中にたまり、骨を圧迫する痛みです。歯の根っこのむし歯がさらに進行すると、根っこの先、つまり、顎の骨の中に膿が溜まることがあります。細菌感染が歯髄から根の先に進行していくと、細菌が体の中に入り込まないように、根っこの先で、体の免疫機構が、細菌と戦います。免疫細胞、白血球と細菌の死骸が膿となって、根っこの先、根尖に溜まるのです。この膿が顎の骨を圧迫して、ズキンズキンと激しい痛みを起こします。炎症の起こり始めた約3日間は、鎮痛剤を服用しても痛みが治まらないこともあります。また歯を上下で噛み合わせただけでも、根尖に圧迫感が生じ痛くて噛めないと、訴えます。これが、歯の根っこの先で起こる炎症なので、「根尖性歯周炎」と呼ばれます。

この痛みも、歯髄炎と同様、ある時痛みが消失します。その時には、顎の骨の中で膿が溜まりきって、顎の骨を突き破り、歯茎に穴が開いて膿が外に出てきます。穴が開く？と聞くとびっくりすると思いますが、歯茎にポツッとニキビのような吹き出物のようなものができて、そこから膿が出ている状況です。ご自分で、この吹き出物を見つけたと来院する方もおられますが、痛みが引いているので気づかないで放置している方もおられます。これも、痛みが無くなったので、治ったと考えてはいけない状況です。放置しておくと、慢性的に病状が進行して、吹き出物が大きくなったり、根尖の骨がどんどん溶けてしまって、噛むのが違和感、噛んだら痛い、時には急性化して、さらに腫れたりします。

風邪を引いた場合、健康な方でしたら風邪薬を服用して1週間もしたら治るのですが、歯の病気は、虫歯も歯周病も放置していても治る病気ではありません。

歯髄が死んでしまった場合も、膿が破れた場合も、それ以上の悪化を防ぐために、治療は不可欠なのです。痛みが無くなったからと放置していると、再度痛みや腫れが起きるだけでなく、細菌感染が進行して、抜歯や顎骨炎になることもあります。虫歯や歯周病は、初期段階では、症状のない病気であり、ご自分で気づくことができません。半年に1度は歯科受診して、検診を受けましょう。早期発見早期治療が、基本となります。

富永歯科クリニック院長　富永佳代子